落語「飴買い幽霊」を聴いて
沙界怪談実記の舞台をめぐる part 3
【2023年10月28日開催】
今回は、沙界怪談実記の中から順に
3話「川尻町の老獺」
15話「老猫よく人の話を聞く」
17話「戎町の土蜘蛛の陰火」
5話「櫛屋町の戯れ狸」
を、そぞろ歩きました。
2023年度のそぞろ歩き最終日は、前回とは打って変わって晴天に恵まれました。
さて、「沙界怪談実記」朗読は、序文・14〜19話。
蝋燭屋の飼い猫が二本足で歩き、あんどんの油をなめたとか、湯屋中浜の医者の飼い猫が人の話を解したとか、不浄な行為に立腹した妖が取り憑いたり、えびす町六間筋に土蜘蛛の陰火が出たり、餓死した老人が家の者を次々と呪い殺したり、いじめられた姑の呪いか、嫁が自分の喉を閉めて餓死したり…
鉄砲堂さんが集めた恐ろしく不思議な話を、濱田碧さんの演奏で、なかともさんが語ります。
開口一番として旭堂一海さんに登場いただきました。
講談「妲己のお百(だっきのおひゃく)」。中国最大の悪女「妲己」に例えられるお百は、人をだまし陥れる性悪女。目を患った女の愛娘を吉原へと売り飛ばし、バレそうになったところを昔馴染みの男を雇って殺してしまい……
続いては、笑福亭純瓶さんの落語「飴買い幽霊」。
夜な夜な飴を買いにくる女性に恋をした番頭と訝しむ主人が、女の後をつけると…。
実は、去年の堺の町をそぞろ歩き隊で、純瓶さんに演じてもらうネタだったのが、純瓶さんが急遽入院…ようやく公演が叶いました!
怪談なのに始終笑い声が! 純瓶さんの怪談、ちっとも怖くない(笑)
全国に飴買い幽霊の話はありますが、なんと!堺には幽霊が育てた赤ちゃんがのちに住職となったお寺があるのです。
それは前回訪ねた櫛笥寺(くしげじ)です。安産祈願や水子供養で訪れる人が後を絶ちません。
さて、今年の堺の町をそぞろ歩き隊も、全3回参加している人がいらっしゃいました。
みなさん、古地図は見慣れたかな?
案内人の陸奥賢さんに続いて、そぞろ歩きのスタートです。
まずは開口神社に伝わる金龍井伝説。
仏教のありがたい教えを授かった龍が、お礼に干ばつに困っていた人々のために清水の湧き出る場所を伝えました。そこを掘ってみると水が湧き出し、枯れることはなかったといいます。
堺は海が近かったのですが、よい水が出たそうです。造り酒屋もたくさんあったとか。
開口神社では、この金龍井伝説にちなんだ御朱印帳を頒布しています。妖怪画を手がけるイラストレーター:さきゅうさんの龍を求めて、遠方からも来られるそうです。
迫力のある龍の御朱印帳は大人気!
開口神社から山之口商店街を抜けると、大小路筋に出ます。
ここは最古の国道である竹内街道と西高野街道の起点。二つの街道が、榎元町で分岐します。
紀州街道と大小路筋の交差点には、晴明辻があります。
陰陽師・安倍晴明がこの辻を通ったときに占い書きを埋めたそうで、江戸時代にはここで辻占いが盛んだったようです。行き交う人の会話を利用して占った辻占い……街道は多くの人で賑わっていたのでしょうね。
大小路筋を西へ、紀州街道(大道筋)を渡ります。
古地図には「西六ケンスヂ」とありますが、この場所は大道筋を拡張する時に消滅してしまいまいた。ここに与謝野晶子の生家の駿河屋があったそうです。
「沙界怪談実記」3話には湯屋長西六間筋の銅屋(あかがねや)が出てきます。浄瑠璃語りが得意で、中の町浜へ招かれて語った帰り道に化け物に出会う話ですが、「銅屋が住んでいたのが、今の関西みらい銀行?」と現代語訳者の天羽さんと陸奥さん(笑)。
さらに西へ一本筋を入ると、「沙界怪談実記」15話の湯屋中浜。ここに鉄砲堂さんの知る医者がいたそうで、その飼い猫が人の話をよく理解したとか。
この道をどんどん北へ進むと、ザビエル公園に突き当たります。もちろん昔は公園はありません。
あ、その前に、戎町六間筋に立ち寄りました。先の湯屋中浜から北西の筋です。今はマンションが立ち並ぶ住宅街ですが、ここでも怪異がありました。「沙界怪談実記」17話の土蜘蛛の陰火が出た場所です。
さあ、ザビエル公園到着です。
昔ここは櫛屋町中浜筋でした。ここに「沙界怪談実記」5話の妖怪が出る空き家がありました。染物屋の泉屋伊兵衛が隣の空き家で不審な物音がするので下男と見に行くと……。
このように「沙界怪談実記」には、地名だけでなく人の名前や職業までも書いてあります。今となっては貴重な資料ですよね。
ザビエル公園の中に「慈眼院之跡」の碑があります。
陸奥さんに面白いお話を教えていただきました。
昔、堺の浜に大亀がやってきて、普段ならお神酒を与えて海に流すところ、五升の酒を飲ませたら寝てしまい、起きたら酒をくれというので5升飲ませるとまた寝てしまい……それが3日間続いたところ、大亀は死んでしまいました。(そりゃ、そんだけ酒呑むと死ぬわなぁ)
亀は弁天さんの化身だということで、大きな甕(かめ)に入れて祀ったそうです。すると戎さんがやってきたので、慈眼院に一緒に祀りました。
その後、堺戎神社へ遷り菅原神社の中に祀られることとなったとか。
大亀が大甕に?!
さあ、どんどん歩いて菅原神社へ。
ここに、大亀が祀られているとされる堺戎神社があります。
天気も良く、亀のようにのんびりと、ゆったりと、楽しいそぞろ歩きでした。
(取材文:濱田さち 写真:町田安恵)